【読書メモ】「両利きの経営」(著)チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン

 こちらの本を読んだのでまとめていきます。

 WBSの人気教授である入山先生、IGPI冨山氏が解説しているなかなか豪華な本です。理論というよりも事例解説に頁が多く割かれており、実務家向けの本といえるでしょう。

企業活動における「両利き」とは「探索」と「深化」という活動が、バランスよく高い次元で取れていることを指します。

探索とは自身・自社の認知の範囲を超えて、遠くに認知を広げていこうとする行為です。深化とは自身・自社の持つ一定の分野の知を継続して深掘りし、磨き込んでいく行為です。両利きの経営が行えている企業ほど、イノベーションが起き、パフォーマンスが高くなる傾向にあると実証されています。

一般的に企業には事業が成熟するに伴い、深化に偏っていく傾向があります。第一に人や組織の認知には限界があるため、どうしても「目の前の知」を見がちになるからです。探索にはコストがかかり、不確実性も高いため敬遠されがちです。第二に企業は社会の中で相手に信頼される必要があります。そのために安定性・確実性が大切になります。したがって社会的な信頼を確保できる「深化」に向かいがちです。

さらに成功すればするほど、深化に傾斜しやすくなります。結果、イノベーションが起こらなくなります。これを成功の罠(サクセストラップ)といいます。この成功の罠を逃れ、両利きの経営を行ってきた例としてアマゾンが挙げられていました。逆に成功の罠にハマってしまった例としてシアーズが挙げられていました。

また両利きになるための必要条件としては、4つあります。

①探索と深化が必要であることを正当化する明確な戦略的意図。探索ユニットが競争優位を築くために利用可能な組織能力や資産を明確にすることも含まれる。

②新しいベンチャーの育成と資金供給に経営陣が関与し、監督し、その芽を摘もうとする人々から保護すること。

ベンチャーが独自に組織構造面で調整を図れるように、深化型事業から十分な距離を置くとともに、企業内の成熟部門が持つ重要な資産や組織能力を活用するのに必要な組織的インターフェースを注意深く設計すること。これは、どの時点で探索ユニットを打ち切るか、あるいは組織に再編入するかに関する明確な判断基準も含まれる。

④探索ユニットや深化ユニットにまたがって共通のアイデンティティをもたらすビジョン、価値観、文化。こうしたものがあると、全員を巻き込み、同じチームの仲間だという意識を持つのにも役立つ。

さらには両利きの経営を率いるリーダーシップの原則として5つ挙げられています。

①心に訴えかける戦略的豊富を示して、幹部チームを巻き込む。

②どこに探索と深化との緊張関係を持たせるかを明確に選定する。

③幹部チーム間の対立に向き合い、葛藤から学び、事業間のバランスを図る。

④「一貫して矛盾する」リーダーシップ行動を実践する。

⑤探索事業や深化事業についての議論や意思決定の実践に時間を割く。

以上です。非常に実務的に示唆に富んだ本でおすすめです。