【読書メモ】「虚妄の成果主義」(著)高橋伸夫

今日はこの本を読みました。 

虚妄の成果主義

虚妄の成果主義

  • 作者:高橋 伸夫
  • 発売日: 2004/01/17
  • メディア: 単行本
 

 成果主義については過去の東京都立大のMBA試験にも出題されており、抑えておきたいと思ったためです。2018年の前期に成果主義の定義を述べた上で、成果主義によって、従業員のモチベーションが上がる場合と下がる場合について、それぞれ別のモチベーション理論を少なくとも1つは用いて説明せよ、というような問題でした。

タイトルの通り、本書は成果主義の導入に対して異を唱える内容になっております。著者は組織論が専門の経営学者であるため、モチベーション理論の知見から鋭く切り込んでいきます。

著者曰く、日本型の人事システム、すなわち年功制の本質は、給料で報いるシステムではなく、次の仕事の内容で報いるシステムだということです。仕事の内容がそのまま動機づけにつながって機能してきたのであり、内発的動機づけ理論からすると、最も自然なモデルです。賃金制度は動機づけのためというよりは、生活費を保障する視点から賃金カーブが設計されてきました。この両輪が日本の経済成長を支えてきた、というのが一貫した主張です。

逆に成果主義、すなわち①できるだけ客観的にこれまでの成果を測ろうと努め、②成果のようなものに連動した賃金体系で動機づけを図ろうとするすべての考え方、を批判し、導入すべきでないと結論づけます。これは金銭的報酬のインパクトがあまりに強いため、内発的動機づけを減じることにつながり、仕事が金銭的報酬を得るための手段と化してしまうためです。

一方で筆者は日本型の年功制をただただ礼賛しているわけではなく、運用上の改善点として3つ挙げています。

①制度的に給料にあまり差をつけられなくても、上司は事故の責任において自分なりに一生懸命部下の将来のことを考えて(=主観的に)評価を行っているということを明確に部下に示してあげること。

②単に評価しておしまいにするのではなく、部下にどのような仕事を与えるのか、細かく気配りをすべきである。成果が上がらなかったり、やる気を失ったりする原因は、上司の仕事の与え方にも問題があることを自覚すべきである。

③どんな大企業であっても、社長以下トップ・マネジメントが従業員、特に将来を嘱望されるような従業員の人事に常に関心を持つこと。

個人的に勉強になったのは第3章の期待理論の限界を指摘した箇所です。期待理論といえば、行為によって報酬が得られそうだという期待と報酬そのものの魅力とのかけ合わせによってモチベーションが決まるとする理論で、外発的報酬を肯定する際に用いられることが多い理論です。 しかし期待理論の提唱者であるブルーム自身は、期待理論は欠勤・離職(参加の意思決定)と職務満足との間の関係を説明するには有効だが、生産性(生産の意思決定)と職務満足の間の関係を説明するには向いていないと明言しているそうです。そして生産性を高めるためには内発的動機づけが必要であることをブルーム自身が示唆しているそうです。この辺りは原典をあたってみたいと思います。

ちなみに、この参加の意思決定と生産の意思決定に関する問いが都立大MBA2017年の後期入試に出題されています。

都立大のMBAを受験される方は、読んでみてはいかがでしょうか。 ただ本書に書かれてあることを鵜呑みにするというよりは、他のモチベーションに関する書物も読み、「持論」を持つことが大切なのだと思います。