【読書メモ】「組織戦略の考え方」(著)沼上幹

今日はこの本を読みました。 

 著者は一橋の沼上先生です。新書なので一見読みやすそうで、たしかに読みやすいのですが、ある程度組織論の知識を持っているか、企業組織で数年は働いた経験がないと、リアリティを持って理解することはできないでしょう。たぶん社会人1、2年目で読んだとしても「まあ、そんなもんか」で終わってしまう気がします。

さて、いくつか面白いと思ったポイントを共有します。

 

組織設計の基本は官僚制

官僚制は嫌われがちだが、決して悪い面ばかりではなく、あくまで組織設計の基本は官僚制だと著者は言っています。官僚制ができていない組織では凡ミスが多発してしまい、現代社会では生き残れません。ミスが多発すると社会から非難を浴びることになり、戦略的な仕事をするべきトップまでミスの処理に時間を割くことになります。官僚性がしっかりと機能することで創造性や戦略性は発揮できるのです。

そして官僚制の基本はプログラムヒエラルキーです。プログラムとは繰り返し出現する問題を解決する手順やルールです。これにより組織は複雑な作業を簡単に成し遂げられるようになります。しかしプログラムでは解決できない問題が発生することもありますから、その場合は上司に相談する、というようにヒエラルキーを上に登って解決していきます。

この官僚制を基本に新たな工夫が付加されていくことが、組織設計の基本的な考え方となります。

 

マズローの欲求階層説

著者はマズローの欲求階層説の最上位にある「自己実現欲求」に囚われすぎることに警鐘を鳴らしています。むしろ企業組織を運営する上で自己実現欲求は関係がないのです。著者は承認・尊厳欲求を真剣に考えるべきではないかと書いています。ここで問題になってくるのは「ポスト」です。

 

承認・尊厳欲求を満たすにはポストが必要

→しかしこれ以上ポストを作ることはできない

自己実現欲求を満たせるようにしよう

 

となってしまっているのです。しかし承認・尊厳欲求を満たすための手段はポスト以外にあります。たとえば自分の仕事成果を周りの人から承認され、ほめられ、たたえられ、尊敬されるといったことで満たされる部分です。また仕事で有能感を持たせるために「勝ち戦」を経験されることも大切です。

 

フリーライダー問題

「他の部門が頑張ってくれていれば、自分の部門は頑張らなくても良い。」

「若手を自分は育てなくても、他のマネージャーが育ててくれるから良い。」

こういった人々のことをフリーライダーと呼びます。こうした人たちが増えていくと、当然組織は劣化します。フリーライダー問題の解決策の基本は、責任感の強い人を採用・育成するという前提の上で、組織全体の長期的な運命と自分の運命が密接に関連していると思う人をある程度作っておくことです。

 

トラの権力とキツネの権力

社長や重要顧客などの権力者を「トラ」としたときに、その権力を盾にして力を発揮しようとすることを「キツネの権力」とします。たとえば、

「社長が〇〇と言っていて、言うことを聞かないと左遷されるかもしれない。」

「顧客であるA社が◯◯と言っていて、言うことを聞かないと契約を切られるかもしれない。」

という風に本当かどうかもわからない情報をばら撒いて、力を発揮するのです。このようにして過度にトラが怖い存在かのように肥大化したり、キツネが権力を持ったりして、組織は疲弊していきます。

なのでキツネやトラに媚びることなく、理詰めで闘争ができる人が組織に存在することが大切になっていきます。

 

以上です。組織論をベースにしながらも、組織のドロドロしたリアリティに迫った良書だと思います。